2010年 06月 04日
前にも書いたかもしれないが、私が初めて筒井康隆の本を買ったのは中学生のとき。作品は講談社文庫の『乱調文学大辞典』だった。それ以来、中学・高校時代に文庫で出ている筒井作品はほとんど読み尽くした。オレンジ色の背の角川文庫、赤い背の新潮文庫をはじめ、講談社、中公etc.etc.は今も書棚にずらりと並んでいる。(ただ、うら若き乙女の時はあまりおおっぴらに「愛読書:筒井康隆」とは言えなかった)
思えばいちばん頭の柔らかい時期にどっぷり浸っていたのだから、理解できぬまでも何かしらの影響を受けたに違いない(希望的観測も込めて・・・)。そういう意味で私にとって筒井康隆は先生、なのかもしれない(←呼び捨て)。 実は長らく生きてきて、この作家の先見性に驚かされたことは一度や二度ではない。テレビに支配され、常にカメラを意識して暮らすようになる人間を描いた処女長編「48億の妄想」、喫煙者が迫害され、ついには天然記念物扱いされるようになる「最後の喫煙者」など、書かれた当時は皆が「まさか」と笑い飛ばした内容が、今まさに現実になっている。 出版社の自主規制に異を唱えて行った断筆宣言は、他の作家も巻き込んでのムーブメントまでには至らなかったが、作家として筋を通した結果であり、十分に意味のあることだったと思う。 さきほど先見性と書いたが、それ以上に本質を見抜く目の確かさを持った人と言った方がよいかもしれない。 で、今回の『アホの壁』。 このタイトルからはベストセラーとなった養老猛著『バカの壁』を連想せずにいられない。ご本人もその件について何度も述べている。自虐的とさえいえるこのタイトル、そして流し読みさえできそうな表現の奥に彼の含蓄の深さを垣間見てはため息・・・リズムに乗せられてスルーしてしまいそうになる懐かしい論調だ。 この本では、人間のアホらしい行動とその心理がデフォルメされ描かれている。アホは他人を巻き込み、スムースに運ぶはずの物事を滞らせ、世の中を厄介にする。みんなが道理をわきまえ、合理的な考えを選択できるなら、世の中はもっとよくなるはず・・・・なのか??でもそんなのつまらないではないか。アホがどんなにこの世を潤していることか。筒井康隆のアホへの思いは決して上から目線ではない。底にあるのは彼の、アホへの愛なのだ。 これを機に養老猛の『バカの壁』も読んでみようと思う。順番が逆・・・ 『アホの壁』筒井康隆著 新潮新書刊 2010年3月30日6刷
by hikoso
| 2010-06-04 19:22
| 本
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Comments(2)
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by
grace
at 2010-06-07 07:51
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私もまだ「バカの壁」を読んでませんが、こちらは読もうかしら(笑)
学生のときはけっこう読んでいた筒井先生ですが、しばらく遠ざかっていました。 好き、ていうより、当時はものすごい話題な人だったのと、友人が好きだったのでよく貸してもらっていました。断筆されたときは残念でしたねえ~(復帰されて良かったですが) いま筒井さんは深夜番組(関西限定)に出てられるので毎週なつかしく拝見しています(起きていられれば) 放送はされてないと思いますが、こういうのお好きなんではないかと思いますので勝手に貼り逃げしますね♪ http://asahi.co.jp/be-bop/
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藍*ai
at 2010-06-09 13:09
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グレちゃん、書きながら乗ってくるような筒井先生の懐かしいリズムを思い出せたりしますよ。読みやすいので是非。
で、ビーバップ!ハイヒール、好きですね~こういうの。 関西限定で残念だなあ。(先生、眉だけ黒すぎかも・・・) 関東の私は目下、「爆笑問題の学問のすすめ」と「さんまのほんまでっかTV」でお茶を濁しています
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